【参本会議】舟山参院会長が岸田総理大臣の所信表明演説に対し質疑

 舟山康江参議院議員会長(参議院議員/山形県)は7日、参議院本会議において、岸田総理大臣の所信表明演説に対する質疑を行った。全文は以下の通り。

令和4 年10 月7日

第210 回国会 岸田総理所信表明演説に対する代表質問

国民民主党・新緑風会
舟山 康江

(答弁者は山際大臣に対する質問を除き、全て総理)

 国民民主党・新緑風会の舟山康江です。
 会派を代表して、岸田総理の所信表明演説に対して質問を致します。
 冒頭、北朝鮮による弾道ミサイル発射に対して、私も強く抗議します。その上で、Jアラート誤作動による混乱を重く受け止めて、改善に努めていただけるよう、事実関係と対応状況を総理にお伺いします。

1. 岸田政権の政治姿勢

 さて、まず、お聞きしたいのは、国会開会と補正予算提出のタイミングです。通常国会閉会が6月15日、参院選投開票日が7月10日なので、いわば政治空白が3ヶ月近くありました。
 新型コロナへの対応、物価高、円安、ウクライナ危機、度重なる自然災害への対応など、課題山積の中、私たち国民民主党は、先月13 日に、他党に先駆け、国民全員への一人10 万円のインフレ手当てや、消費税5%への減税、再エネ賦課金の徴収停止による電気代値下げ等を盛り込んだ、総額23 兆円規模の緊急経済対策を発表しました。
 一方政府は、野党側の再三の国会開会要求を放置し、山積する課題への対応も遅れに遅れています。開会がここまで遅れた理由を総理にお聞きします。この間の、コロナや原油価格・物価高騰対策と称した政府の予備費使用決定は、財政民主主義にも反することに加え、時間もあった中、なぜ、冒頭に補正予算を提出しないのでしょうか?総合経済対策の担当大臣が機能していないんじゃないですか?
 振り返ると、この担当大臣から、参院選中に「野党の人から来る話は我々政府はなにひとつ聞かない」ととんでもない発言が飛び出しました。大問題です。総理も同じ認識ですか?野党の声は聞かない、だから野党の国会開会要求も無視したのでしょうか?
 また、経済再生担当大臣、これは誤解を生む表現ではなく、「野党の声は聞かない」と明言しています。ごまかさずに今からでも発言を撤回されますか?お答え下さい。
 山際大臣に合わせていくつか質問します。補正予算に繋がる総合経済対策が未だに出てこないのはなぜですか?旧統一教会との深い関係への釈明に追われていたからでしょうか?また、海外にまで出かけて出席した会議について「資料がなく確認できない」とすっとぼけ、逃げられないと分かると「記憶が蘇ってきた」など、他人事のように追認するその姿勢で大臣が務まりますか?なぜ今頃記憶が戻ったのでしょうか?公表済みの事実関係も含め、記録と記憶に基づいて、すべて明らかにして下さい。参院選中の問題発言も責任重大で、早く辞任を決断すべきです。いかがですか?
 政府・与党からは「旧統一教会への解散命令は難しい」との声が聞こえてきますが、宗教法人法にある、報告徴収・質問が可能との規定は発動済みですか?まだだとすればなぜですか? 今、総理の本気度が問われています。総理、お答えください。

2. 物価高・円安への対応

 続いて、足下の物価高への対応をお聞きします。
 所信表明でも言及されたように、物価高は、我が国にとどまらない世界的規模の現象ですが、アメリカなど多くの先進国では、景気回復と賃金上昇が伴っています。
 一方、我が国では、賃金上昇が全く伴わない中で、多くの資源や食料を海外に依存している結果、資源高の影響に加え、円安も手伝って急激な物価上昇が続き、消費者から悲鳴が上がっています。
 もう1つの問題は、消費者物価指数と企業物価指数の乖離です。8月の消費者物価指数は、前年同月比プラス3%の102.7、企業物価指数は、プラス9%の115.1 と、5 ヶ月連続で過去最高を記録しています。つまり、原材料値上げを十分に販売価格に転嫁できていないのは明らかです。加えて、取引の重層構造下で、不当な「買いたたき」や、協力金等の名目で値引きを迫られている事例等を下請け事業者から多数聞きました。これでは、企業経営が厳しくなるのは当然です。大企業・製造業でも、景況感を示す日銀短観の業況判断指数(DI)は、3四半期連続悪化しています。
 急激な輸入原材料価格の値上がりに対して、当面の価格抑制策は必要ですが、本質的には、更なる国内経済の強化と、円の価値の向上、価格転嫁の推進、値上げにも耐えられる強い経済、つまり、賃上げの実現が必要です。
 そこで総理にいくつか質問します。
 過度の円安進行は、日本の経済力低下を意味しますが、円安の要因はどこにあり、どう改善していくべきと考えていますか?
 物価、特に原材料価格高騰対策と価格転嫁に向けた具体策をどう考えていますか?
 そして、総理が考える「構造的な賃上げ」とは何か、また、これまで「構造的な賃上げ」を実現できなかった要因はどこにあるのか?
 それぞれお聞かせ下さい。
 合わせて、今、労働者の4 割弱を占める非正規労働や、外国人技能実習制度、そして、労働移動円滑化が賃金に与える影響をどのように考えているのか、逆に賃金の下振れという、負の効果の拡大に終わらないのか、お答え下さい。
 分配重視が総理の売り物だったはずですが、「分配」という言葉が消えた理由もお聞かせ下さい。
 国民民主党は、給料が上がる経済の実現のため、賃金上昇率が安定的に「物価上昇率+2%」になるまで、消費税率を5%に引き下げることを提案しています。
 EU各国など、世界の少なくとも50 を超える国が、コロナの難局打開に向け、付加価値税減税に踏み切ってきた中、今こそ我が国でも消費税減税を行うべきであり、改めて総理のご決断をお願いします。

3. ものづくり復活

 我が国の物価高は、世界的な資源価格高騰と円安のダブルパンチによるもので、輸入依存度の高い分野ほど大きな影響を受けています。
 他国の景気回復や経済発展で、世界全体の需要増が引き続き見込まれる中、更なる価格上昇リスクに加え、欲しいものが買えなくなる「買い負け」のリスクも大きくなっています。
 現在、新車の納期は半導体その他部品不足、コロナ禍による海外サプライチェーンの機能不全もあり、長いもので1年半と聞いています。食料も、世界的な異常気象の頻発、ロシアのウクライナ侵略の影響、新興国の需要増、食料自体に加えて肥料や飼料の調達困難化など、「お金さえ出せばいつでもどこからでも買える」状況ではなくなりつつあります。
 今こそ、食料、エネルギー、医療・医薬品、工業製品など、経済安全保障の観点からも、国内生産の増強を進め、様々なリスクに備えるべきです。総理の言う「危機に強い経済構造への転換」とは、まさに「国内でのものづくり復活!」のことだと推察しますが、具体策をお示し下さい。
 1月の施政方針演説では、「輸出の促進とスマート化による生産性向上」のみが強調されていた農林水産分野では、「農産物の国内生産を通じた食料安全保障の確保」が盛り込まれたことは大いに評価します。そのためには、輸入依存度の高い小麦や大豆の国内生産増大で自給率を高めると同時に、減少が続く担い手育成の強力な推進が不可欠です。
 また、政府が進めている「流域治水」の観点からも、農地の役割が重要視されるなど、農業の振興は、防災・減災にも直結しています。
 こうした多面的役割の維持にも、再生産可能な所得確保策が欠かせません。
 輸入小麦の政府売り渡し価格の据え置きもいいですが、中長期的な国策として、むしろ注力すべきは、小麦などの国内生産振興と、利用促進です。国産農産物の需要拡大と輸入品から国産品への置き換えの具体策について伺います。
 輸入小麦価格とともに、配合飼料の負担を10 月以降も据え置くことを強調されましたが、現行政策では、工夫を凝らして自家配合飼料を使用する生産者には恩恵が及びません。こうした生産者を支援する具体策をお伺いするとともに、きめ細かくあらゆる生産者に行き届く支援策の実行に向けた総理の決意を伺います。

4. 未来への投資

 6 月の通常国会閉会後、地元を歩く中で、物価高やコロナ対策と並んで多くの声を聞いたのが、「子ども・子育て政策の重要性」でした。まさに少子化こそ国難だ、との声に、改めて「人づくりこそ国づくり」の思いを強くしました。
 そもそも、家族関係社会支出の対GDP比は、他国が3%前後に対して、日本はわずか1.7%。教育や子育てへの公的支出は、他国に比べて著しく少ないのが現状です。他国がコロナ禍でも出生率を上げているのに対し、日本は出生率の低下に歯止めがかかりません。その理由をどのように分析されていますか?
 こうした危機意識に立ってか、総理は、昨年9月の総裁選以降、国会答弁を含め何度も「子育て予算倍増」との決意を表明されています。一方、今回の所信表明では、「少子化対策、子育て・子ども世代への支援を強化する」との表現にとどまっていますが、予算倍増との決意は変わりませんか?ぜひ、具体的工程と財源をお示し下さい。
 加えて、1 月の代表質問でも指摘したとおり、子育てや教育に対する給付の多くに根拠も曖昧なまま所得制限が設けられ、給付後の実質的な収入の逆転現象も生じています。
 昨年5 月の児童手当法改正で、今月から年収1,200 万円以上は特例給付がなくなりました。世界の流れに逆行していると言わざるを得ません。今回の廃止で対象外となる子どもの数は61万人、給付額は370億円です。そして、これに伴うシステム変更等に358億円もの予算が計上され、本末転倒の状況です。
 一定所得以上の人は、納税などの所得再分配を通じて社会の支え手として大きな貢献をしている割には、年少扶養控除は廃止され、手当ても打ち切られ、国から子育てに関する給付や支援の恩恵はほとんどありません。受益があまりに少なく、なんのために納税しているか分からない、働くモチベーションが下がる、との声が押し寄せています。
 国民民主党は、このような声を受け、先の通常国会に続き、今国会召集日に、「こどもに関する公的給付の所得制限撤廃法案」を提出いたしました。
 総理、改めて子育てや教育への支援に対する所得制限は撤廃し、全ての所得階層に経済的恩恵を付与するぐらい思い切り、まさに、社会全体で支援するべきではないですか?お答えください。
 また、「130 万円の壁」など、税制や社会給付が、働き方の抑制や不公平感の一因となっています。
 今年5月発表の、全世代型社会保障構築会議「議論の中間整理」では、「働き方に対して中立な社会保障制度の構築」の重要性が指摘されています。その観点からも、所得制限の矛盾や逆転現象の他、制限付き給付に要するコスト、第三号被保険者のあり方も併せて議論いただき、本当の意味で子育てしやすい環境の整備、中間層の復活に向けた大胆な支援へと舵を切って頂きたいと考えますが、いかがですか?
 こうした税金と社会保障の負担と給付のバランスを考えた時に、マイナンバーのさらなる活用は待ったなしです。
 コロナ禍での住民税非課税世帯への給付金も、本来なら個人のフローのみならず、全ての個人口座を紐付けて、ストックも含めた把握を行えば、より公平かつ迅速な給付につなげることができる上、行政のデジタル化をもう一段進めることで、事務手数料削減にもつながります。
 マイナポイントや、自治体へのペナルティーでマイナンバーカードの取得促進を図るのではなく、利便性や公平性の確保に資する活用の強化をインセンティブに、取得率向上を促すべきと考えますが、いかがですか?

5. コロナ対策(マスクのリスク)

 コロナ対応について、岸田総理の基本認識を伺います。7月中旬以降の第7波で、一日あたりの国内感染者数は過去最高を記録しましたが、重症化率や死亡率にどのような特徴があるのか、お答え下さい。合わせて、ワクチン接種の有無による、感染率や重症化率、死亡率の違いをどのように分析しているか、具体的に教えて下さい。9 月7 日のアドバイザリーボード提出資料によれば、未接種の方が新規陽性率が低い年代もあります。これはどのように解釈すればいいのでしょうか?
 さて、「マスクについては、引き続き、屋外は原則不要です」との指針が、どのくらい国民に理解されているでしょうか?確かに、今年5月23日に変更された「基本的対処方針」において、その旨示されていますが、屋内外問わず未だにマスク着用は半ば義務だと、多くの人が思い込んでいます。
 欧米を中心に多くの国では、もはやマスクの義務化はほとんど行われていません。感染についても、ほぼインフルエンザと同じ扱いです。総理、そろそろマスク着用のあり方を見直すべきではないでしょうか?少なくとも、屋外での原則不要という方針を、もっと周知徹底すべきではないでしょうか?
 コロナ禍で一番影響を受けたのは、子どもたちです。夏の甲子園優勝校、仙台育英高校の須江航監督が優勝インタビューで発した、「青春って、すごく密なので」。ぐっと心に刺さった方も多かったと思います。
 ある高校の創立100周年記念式典に参加した際、生徒会長が、感謝の思いを綴りながらも、やりたいことができなかった悔しさを露わにしていました。
 もう、制限は止めるべきです。感染症のリスクよりも、マスク生活や行動制限下で失われた経験による、心身に与えるリスクの方がずっと大きいとの専門家の指摘や、マスク生活による子ども、とりわけ乳幼児の脳や心への影響に関する海外での研究が報告されていますが、我が国でも同様の研究は行われていますか?また、検証を行い、対策の見直しに反映させるべきです。

6. 自然災害へ対応

 続いて、多発する自然災害への対応について、お聞きします。線状降水帯による局地的な豪雨が頻発する中、今年も各地で未曾有の被害が相次いでいます。私の地元でも、8月上旬の豪雨が、多数の家屋浸水被害に加えて、橋梁や道路の崩落、農地への土砂流入など、大きな被害を残しました。
 8 月豪雨に関しては、激甚災害指定となり、これは大変ありがたいですが、不思議なのは、これだけの被害にもかかわらず、政府に対策本部が設置されなかったことです。なぜですか?また、2年前、3年前には政府全体でまとめられた、「被災者の生活と生業(なりわい)の再建に向けた対策パッケージ」が今回は出されていません。なぜですか?事業所や家屋の再建支援、農業機械の再取得支援など、これまでの対策パッケージと同様の支援策を、今回も実施するよう、強く要望いたします。
 自然災害による被害は、全体規模の大小にかかわらず、個々の被災者本人にとって甚大です。そんな中、被災者の負担軽減のために、以前から税理士会からも要望が強い、税制面での配慮、災害損失控除の創設を行うべきと考えますが、総理のお考えをお聞かせ下さい。

7. インボイスの課題

 税制関連でもう一点、提案いたします。適格請求書等保存方式、いわゆるインボイスの問題です。
国民民主党は、免税事業者が取引から排除されるリスクや、消費税相当額の値下げ強要などで、廃業を余儀なくされる危険性を指摘し、その廃止を提案して参りましたが、こうした懸念に対する総理の見解を改めてお聞かせ下さい。
 中でも今、問題視されているのが、シルバー人材センターへのインボイス適用です。免税事業者である会員と取引関係のあるシルバー人材センターは、仕入れ税額控除の適用が受けられない分、新たな消費税納税義務が発生します。
 しかし、会員の平均年収は43 万円程度、そもそも、高齢者のボランティアに近い活動で成り立っている公益法人から、税金を徴収することを制度は予定していないはずです。それどころか、高齢者が知恵や経験を発揮する場を奪いかねない課税強化であり、総理が掲げた包摂社会の実現にも完全に逆行するものです。インボイスが免除される取引がいくつか規定されている中、シルバー人材センターの本事業についても特別の配慮をするべきと考えますが、総理、いかがでしょうか?

8. 結び(旧統一教会問題の解決)

 国民民主党は、今国会でも「対決より解決」を掲げ、国民生活を守るための政策実現に邁進して参ります。
 しかしながら、このままでは、旧統一教会と政治、特に与党、自民党との関係の問題が、建設的な議論の大きな障害として立ちはだかるのが目に見えています。
 この問題を速やかに、かつ抜本的に解決すべく、総理・総裁である岸田総理の指導力の発揮を期待しますが、所信表明では「各般の取組」という抽象的な表現にとどまり、極めて消極的な姿勢と断じざるを得ません。
 各般の取組とは具体的に何を指すのか、フランスの反セクト法のような、新法制定も念頭に置いているのか、また、問題発言を繰り返し、緊急経済対策策定を遅らせ、旧統一教会との関係も明らかな山際大臣は、総理の任命責任の中で更迭すべきではないのか、自民党が旧統一教会との関係を断つことを約束して頂けるのかを最後にお伺いし、私の代表質問とします。

第210回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説に対する代表質問(参議院・舟山康江)